過酸化水素原料の販路拡大
環境に優しい商材を
世界中に発信

K.K

パフォーマンスケミカル部 第1課(課長)
外国語学部卒 / 2001年入社

Prologue
クリーンで環境に優しい化学品として、過酸化水素の需要が高まっている。その過酸化水素製造に不可欠な原料を日本で唯一作っているサプライヤーと共に、世界各国のユーザーに向け販売活動を行うも、重要な局面でコロナ禍に見舞われることになった。世界中の物流機能が麻痺する中、商社としてできることは何か…。
STORY - 01

過酸化水素の販路拡大にビジネスチャンスを見出す

過酸化水素(化学式:H2O2)は分解産物が水と酸素という、非常に環境に優しい化学品だ。聞きなじみのないこの過酸化水素だが、おそらく誰しもが使ったことがあるだろう。擦り傷等の消毒に使うオキシドールや液体の衣料用漂白剤、実はこれは希釈した過酸化水素が主成分になっている。
その環境に優しい性質をもった過酸化水素、実は半導体の製造工程における洗浄剤等幅広い分野で利用されている。ご存じの通り半導体は、スマートフォンや自動車等あらゆる製品に使われており、世界各地で大きく需要が伸びている産業だ。大量に生産することだけではなく、昨今では半導体の品質レベルも高く求められるようになってきたのがグローバルの大きな流れ。半導体製造工程の洗浄剤である過酸化水素の質でさえも厳しくみられるようになってきた。ここにK.Kはビジネスチャンスを見出した。

プロジェクトが発足した背景

その過酸化水素製造に不可欠な原料を拡販するのが今回のプロジェクトだ。半導体需要が伸びるとともに、原料の需要も伸びると予想した。市場は世界中にある。新しいマーケット開拓がミッションである本プロジェクトは、二度の産休・育休を経てパフォーマンスケミカル部の配属となったK.Kが、自ら部署に提案をして始まった。蝶理らしい「やってみよう」がまさに体現された形だ。

蝶理は1956年、石油化学の将来性に着目し化学品の取り扱いを開始した。以来、化学品事業は60年以上にわたって実績を積み重ねており、全社売り上げの半分を担っている。その中でもウレタン原料、機能性材料、樹脂原料、化粧品原料、塗料原料の輸出入販売を行うパフォーマンスケミカル部では、世界的な環境意識の高まりを受け、バイオ原料やリサイクル原料等成長市場での事業展開を強化しているところだ。

前述の通り、近年過酸化水素が半導体洗浄に使われるケースが増えている。半導体洗浄とはシリコンウェハーのゴミや汚れを取り除く工程である。全工程の30〜40%を占めるだけに、より高純度な過酸化水素が求められる。

今回のプロジェクトにおいては、当該の原料を日本で唯一作っているサプライヤーと共に、世界各国のユーザーに向けて販売活動を行うこととなった。このような共同活動は蝶理では珍しくない。K.Kは需給バランスや競合情報等を収集した上で交渉に臨み、メイドインジャパンの製品を使用するメリットをアピールしつつ、ユーザーとサプライヤーと蝶理の三者が中長期的にWin-Winの関係を築くことを目指した。

STORY - 02

商習慣の違いを乗り越え、信頼関係を構築するために

主な販売先はヨーロッパの大手化学メーカーである。ここでK.Kは大きな商習慣の違いを目の当たりにした。今までビジネスを多く経験してきたアジアの企業相手の貿易のように、先方の経営者が商談の場に現れることはなく、窓口となる購買担当には、「まずはあなた方の提案をお聞きしましょうか」と、やや高圧的な態度を取られることが多い。こちら側への情報提供は一切なく、「提案内容が魅力的ならアクセプト(受諾)するし、そうでなければリジェクト(却下)するだけです」といった物言いだ。

いきなり踏み込んだ質問をするのは失礼にあたる。商習慣の違いはもちろんのこと、販売先の企業ポリシーも深く理解した上で対応しなければならない。また、同行している日本のメーカーとヨーロッパ大手化学メーカーの間に入り英語での商談・交渉をサポート。まさに化学品専門商社・蝶理の本領を発揮すべき場面だった。そして、そんな取り付く島がない状態から折衝を重ね信頼関係を構築するのが、商社パーソンの本分とも言えた。

交渉は難航したものの、最終的には安全性の面で最高クラスの評価を受け採用が決まった。まず、その原料を使えば、不純物を含まない高純度の過酸化水素を生成することができる。また、原料の製造過程で排出される排水をサプライヤー側で環境負荷が低くなるよう正しく処理している点も、ユーザーにとっては大きな安心材料となった。さらに、過酸化水素自体はクリーンな化学品だが、原料は危険品であるため、梱包を解く際に粉塵が舞わない製品形状も顧客から評価された。

しかし、競合相手が存在する中での貿易は一筋縄ではいかないものである。今回競合となる中国メーカーは、安価なコピー品を大量に販売していた。それに加え、彼らは需給バランスを無視して製品を増産し、環境面での対応が難しくなれば突然生産を停止する等、マーケットを荒らしていた。我々のように良質な原料を提供するには、それなりの研究コストがかかる。単純な価格勝負だと太刀打ちできない。また、荒れ放題のマーケットでいかに製品を安定供給するかも課題だった。

プロジェクト中期の苦労
STORY - 03

物流の知識とノウハウにより、配送ルートを最適化

商談を取り付けたら終わりではない。中国市場も安価であり油断できない状況だ。顧客である大手化学メーカーの期待に応え続けるため、コストダウンとBCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)の観点から、K.Kは原料の輸入を日本の原料メーカーに提案した。もちろん外国産の原料を使ってもユーザーが求める安全性は担保する必要がある。コミュニケーションをより密にし、安価で安定的な供給実現を商社としてサポートした。
販路拡大はスピードが命だ。ニッチな分野に注力してきた蝶理は、もともと意思決定の早さと機動力の高さに定評がある。さらに、世界各国に現地法人を置き、グローバルネットワークを構築していることも特長の一つだった。現地法人に直接コンタクトを取れば、いくつかのキーワードを伝えるだけで潜在顧客や貿易統計等のマーケット情報が出揃う。原料の在庫状況を鑑みながら販売戦略を立案し、それらを確実に実行していった。

プロジェクトのローンチ

しかし、コロナ禍においては鉄壁のサプライチェーンもさすがに乱れ、製品の安定供給に赤信号が灯った。手配済みの製品が船に積み込めない、あるいは、目的地の最寄りの港が封鎖される等、世界中の物流機能が麻痺したのだ。コロナ禍で多くの消毒液が必要とされているのにも拘わらず、コロナ禍が原因で物流が途絶え、消毒液の主成分である過酸化水素を作るための原料が届けられないというのは、なんともやるせなかった。

そこで活かされたのが、新卒で配属された国際物流ユニット時代に身に付けていた物流の知識とノウハウである。通常は船便だが、鉄道は使えないか。目的地の最寄りの港は無理でも、手前の港までは運べないか。決して諦めることなく、様々な選択肢を探った。また、物流会社との取引を限定していなかったのも奏功した。サプライヤーとしては製造を止めない。蝶理としては配送ルートを最適化する。互いを信じ互いに役割を担うことで、なんとか難局を乗り切ったのだった。

商社パーソンはできることが無限大だと、K.Kは改めて思う。製品も、国も、取引先も、商売も、自分次第でいかようにもできる。そして、蝶理で「こんなことをやってみたいです」と意見具申したときに返ってくる答えは、決まって「じゃあ、やってみよう」である。

クリーンで環境に優しい化学品として、今後も過酸化水素の需要は高まっていくだろう。『「楽しく儲ける」が私の仕事のモットーです。自分自身を含めて課員が成功体験を積んでSTEP UPし、人・商売・組織を育てていけるようになりたいと思っています。』K.Kは笑顔で答えた。K.Kの挑戦はこれからも続く。

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